「西成のまちづくり100話」
「ますみ荘」建て替え物語
大阪市内には老朽化した木造建物が密集し災害が発生すると想像も出来ないほどの被害が生まれる地域が約1、300ヘクタールあると言われているが、その代表的なエリアの一つが西成地区である。
老朽化した木造賃貸住宅は防災上極めて危険でしかも住宅としての水準も劣悪であることより、西成地区のまちづくりでは老朽化した木造賃貸住宅を一定水準の耐火建築に建て替え・更新することが大きなテーマとなっている。
しかし建て替えには、道路状況や隣接建物状況などの立地条件や、従前居住者の移転や賃料などの経営的な条件、などから多くの事業リスクが予想され、実現への取り組みはなかなか進まない。
そんな中、1995年春、老朽アパート4棟(ますみ荘)を母から相続し経営している4姉妹の一人から、建て替えについての相談がまちづくり委員会に持ち込まれた。そこで強く訴えられたのは、「何としても母の想いの一杯詰まったこの土地を、未来に立派に残して行きたい。」という土地への強い愛着であった。当時、ますみ荘は築後30年以上経過しており、建物は老朽化し、入居者の多くは、高齢者や生活困窮者だった。
建て替えの取り組みが始まった当初は、「50人を超える入居者がいるのに建て替えなんて・・・?」「建て替えても家賃が上がって入居者は・・・?」「建て替えには莫大な費用か必要だけど・・・?」「建て替えても経営は大丈夫・・・?」など、不安でいっぱいだったが、7年という長い時間をかけ2002年11月、西成地区における老朽木造住宅建て替え第1号となる鉄筋コンクリート7階建ての「増井マンション」が完成した。
長い時間を費やしたが、多くの困難を乗り越える為に、まちづくり委員会を支える多くの専門家が力を結集し、大阪市も様々な支援制度でバックアップした。「大阪市民間老朽住宅建替支援事業」による建設資金の一部補助と従前居住者への家賃補助、「大阪市優良賃貸住宅建設資金融資制度」による低利融資、これらをうまく活用することで建て替えの事業性が格段に高まり、
一方、不安一杯のオーナーにはまちづくり委員会メンバー、専門家、市職員が常に連携しながら寄り添い、サポートすることで建て替えを実現させた。
また、大阪市による建て替え期間中の仮移転用受皿住宅の建設は、従前居住者の移動や協力を強く後押ししたし、建て替え後に引き上げられる新家賃での生活保護受給者の受け入れについても、家賃補助の取扱い協議により認められることとなった。そして誰もが住み慣れた地を離れずに住み続けられるようになった。 『住みつづけられるうつわ』の誕生であった。