「西成のまちづくり100話」
西成高度情報化研究会
西成街づくり委員会は、1996年に高度情報化社会に対応する先駆的街づくりをめざす「西成デジタルタウン構想」を策定し、翌1997年4月には、地域情報化モデル事業を積極的に導入するために「西成高度情報化研究会」を設立、行政と協力して、住民が安心して使いやすい総合的な情報システムの実現をめざしました。
1998年8月通産省(当時)が公募した「情報化街づくり整備事業」に大阪市の要請を受けて応募、全国127件の中から、西成高度情報化研究会が提案した「地域型多用途ICカードの実証事業」が採択され、1999年4月に実証事業がスタートし、高齢者を中心に約4000枚のICカードが発行されました。
「1枚のICカードで買い物ができ、地域の医療や福祉サービスも受けられる」という構想で、不況に苦しむ商店街の活性化と高齢者が多い地域のニーズを組み合わせた全国初の情報化システムの試みで、「Jカード」と命名されました。当時、電子マネーの機能を持ったICカードは普及しておらず、京都や埼玉などでは商店街でのポイント制などの付加価値をつけていましたが、西成では、福祉サービスを付加価値にするという点で全国でも珍しい実験でした。鶴見橋商店街では、例えば、地域の医療機関や高齢者施設、障害者施設と連携し、地域住民の健康管理や介護サービスなどの予約などの情報を一元化するなどの構想も検討されました。利用者は、カードでこうした情報を入手できるほか、カルテや健康状態などの個人データを入力、急病で倒れた場合、提携した医療機関はカードだけで患者の情報を引き出せるようになる、高齢者の「お守り代わり」をめざしました。
最大の課題は、個人情報の保護で、商店街の電子商取引(EC)の管理と、個人の介護情報などを同時に処理できるセキュリティシステムの構築に取り組みました。基本のシステムは、考え方として(1)大阪市個人情報保護条例の理念を発展させる、(2)本人とカードの顔写真の照合で利用者を特定するシステム、(3)2枚のカードが残す利用履歴が目的外利用の抑止効果を高めるというもので、管理方法として、(1)地域情報化を推進する組織の構造と役割を明確にし、(2)地域情報システムを運営する地元組織を立ち上げ、(3)分散型の地域情報システム導入で構築・運用コストを軽減するというものでした。
Jカードは、西成のまちで話題となり、後に「くらしカード」に引き継がれて、地域情報化を進取した街づくりの事例となりました。