第26話 「銭湯利用者調査」を実施

「西成のまちづくり100話」

「銭湯利用者調査」を実施

 2002年3月で同和対策法は終結しましたが、その影響で、大阪市の「高齢者・障害者入浴券」が廃止されました。入浴券は、60歳以上の高齢者及び障害者に毎月15枚の入浴券(無料券)が支給されるという同和対策事業で、西成地区の対象者は多く、5000人を超えていました。制度の廃止で、利用者側の利用控えによる孤立や健康悪化、銭湯経営者の顧客減少による経営悪化の両方が懸念され、2001年の9月から10月、西成地区街づくり委員会は、NPO福祉のまちづくり実践機構(冨田一幸代表)の協力を得て、地域の5浴場(出城、千成、浪速、都、旭)を利用されている約800人への聞き取り調査を実施し、その結果をまとめました。この調査結果をもとに、西成くらし組合が結成され、入浴料が360円(当時)に対し、10回分で2,600円の割引券(60歳以上のみ)「くらしカード」が発行されることになりました。

 銭湯の利用頻度を尋ねたところ、「ほとんど毎日」が63・4%、「2~3日に1回」が28.1%と銭湯を日常的に利用している人が大多数を占め、銭湯に行く理由を尋ねたところ、「家に近いから」が54.1%、「浴槽や洗い場が広くゆっくりできるから」が20.9%となりました。希望入浴料を尋ねたところ、現状の共同浴場(同和対策で建てられた浴場で当時入浴料が一般の銭湯より安くなっていた)よりも安い「200円~260円未満」が54.1%、一般の公衆浴場の入浴料より安い「300円~360円未満」が26.7%となった。銭湯に対する期待を尋ねたところ、「今のままでいい」49.5%、「いろいろな種類の湯が楽しめる浴場」が10.3%、「高齢者や障害者が利用しやすい浴場」が7.2%で、入浴以外の健康相談等のサービスやカラオケ、飲食等の付帯サービスを期待する割合は3%と低い結果となった。

 調査当日に入浴券(同和対策)を利用している割合は63.8%で473人あり、その方々に聞いた。入浴券が廃止されると銭湯はどう変わると思いますかと尋ねたところ、「今までと変わらない」は34.0%で、66%が銭湯の利用方法を何らかの形で変えるとした。具体的には「利用回数が減る」54.1%が最も多かった。その方々の今後の週当たりの利用回数として、「週3回」38.3%、「週2回」21.1%、「週1回」12.1%となった。

 西成地区の街づくりにとって、同和対策の廃止は大きな問題でしたし、とくに高齢者が多く、自家風呂のない賃貸住宅居住者が多いために、銭湯での入浴券廃止は大きな影響が予想されましたし、住民の関心も高いものでした。これに対し、街づくり委員会が、施策に依らず、組合を作って入浴料を抑えるくらし組合を提案したことは、大きな画期でしたし、その導火線はこの「利用者調査」でした。

 資料:銭湯利用者調査を実施

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第25話 「なにわ筋」沿道地区まちづくり構想

「西成のまちづくり100話」

「なにわ筋」沿道地区まちづくり構想

西成地区のまちづくりが行政を巻き込んで本格的に進められるきっかけとなったのが「なにわ筋」の拡幅延伸問題です。「なにわ筋」拡幅延伸は地区の中心を貫いて大阪市内西部を南北に結ぶ幹線道路として事業計画が進められていました。広域的な交通の利便向上を図る目的での道路整備ですが、地区にとっては同時に、大きな課題を抱えることになりました。

1つは、「なにわ筋」が地区の顔として新しく生まれ変わらなければならないにも関わらず、切り取り買収による道路拡幅で、これまでの木造密集住宅街区が東西に分断され、その結果、老朽化した木造住宅の裏側が新しい道路に面することになり、いわば道路にお尻を向けたファサード(景観)が出現してしまうことでした。
次に、以前、「鶴見橋商店街活性化構想」でも触れましたが、地区を東西に貫き地区の人の流れの大動脈である鶴見橋商店街が東西に分断されることは特に商店街の人たちに大きな危機感を抱かせました。
また、「なにわ筋」沿いには多くの公共施設が立地しており、道路拡幅に伴う再編、整備が地区の生活圏再編と合わせ大きな課題となりました。

そこで1999年、これら課題に取り組む構想検討会を設置し、3年間に亘りアンケート調査や、ワークショップ等を重ね「なにわ筋沿道地区まちづくり構想」を作成しました。
構想の柱となるのは、「なにわ筋」を地区のメインストリートと位置付けて、A.メインストリートにふさわしい道路整備と景観づくり、そして、B.鶴見橋商店街と一体になった賑わいづくり、C.公共施設の効率的な再整備、についての方策です。
これに基づき、まちづくり構想では、長橋通り~梅南通り間の「なにわ筋」沿道地区を、1.コアゾーン、2.商店街活性化ゾーン、3.店舗・住宅・公共施設検討ゾーン、4.商業・業務交流ゾーン、5.店舗・中高層住宅併用ゾーン、6.面的居住環境整備ゾーン、7.協調・共同型居住環境整備ゾーンの7ゾーンに分類し、それぞれの整備方針が示されています。

その後、なにわ筋は広い中央分離帯を持つ無電柱の景観配慮型道路として拡幅整備が終了しました。そして、コアゾーンでも特に重要な位置を占める鶴見橋商店街との結節点には、鶴をモチーフとして5番街と6番街を視覚的に一体化するリング型信号機が設置され、北西コーナー部分は木造老朽住宅の共同建て替えにより、店舗、高齢者施設、集合住宅の複合ビルに生まれ変わりました。また、面的居住環境整備ゾーンでは、住宅地区改良事業が進められ、隣接の道路沿いには診療所が新しく設置されました。
そして、道路沿いに配置されていた保育所や集会室などの公共施設も、移転や統廃合が進められるなど、少しずつではありますが、着実にまちは表情を変えつつあります。

資料:「なにわ筋」沿道地区まちづくり構想

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第24話 西成製靴塾

「西成のまちづくり100話」

西成製靴塾

 かつては全国シェアの8割を誇ったという西成区の高級婦人靴。機械化できない工程がほとんどで、熟練した靴職人の技巧が『西成ブランド』を支えてきました。しかし、時代の変化とともに、職人の高齢化や大量生産の輸入品の増加、長引く不況の中で廃業するメーカーも増えていきました。このため伝統的な製靴の技術を後世に伝えようと西成製靴塾の開塾準備を、1997年から進めてきました。
 はじめは、出城東住宅の作業所や、チャレンジド(介護ショップ)の一角を使って続けられました。インターネットのホームページで紹介したところ、全国から『自分の足にあう靴を作りたい』「自分の店を持ちたい」といった反響があり、地元の職人さんが女子大生や脱サラした男性になどに製靴の技術を伝授しました。
 さらに、98年9月には、高齢者の知識や経験を生かして地域の伝統文化をマルチメディアで伝承しようと、通産省の外郭団体が取り組んでいる「ハイパー風土記」に応募し、住民主導の活動では、初めて対象事業となり、熟練した職人技をCD-ROM(なにわの靴名人)に収録することになりました。
99年月には長橋小学校の空き教室を使って、職人技術の伝承を目的に、機械は最小限で、製靴技術製法の習得を内容として、定員15名で始められました。この塾は、単に製靴の技術研修だけではなく、靴に関する高度な技術や意匠デザイン、また皮革製靴産業に関する基礎的な知識の習得も目標として開設しました。
靴作りの多くは機械を使い、分業で進められており、一人ですべての工程を行う作業形態にはなっていません。手作りのよさの再発見や新たな靴作りマイスターやシューフイッターやフスフレーガー(足のお医者さん)をめざして、この塾から育てるべく取り組んできました。
99年度は16名が受講し、3名が靴の小売に、2000年度は、2名が卒業し、他は継続となっています。
その後、西成製靴塾の取り組みは、新たな工場アパ-ト「西成クラフトセンター(仮称)」の建設構想にも発展し、西成の地場産業である「皮革関連産業」、とりわけ西成の歴史ある産業『製靴皮革産業』の活性化を図る予定でしたが、「西成クラフトセンター(仮称)」の建設構想が頓挫し、製靴塾だけが続けられるという現状になりました。

 資料:西成製靴塾

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