第23話 不況・緊急アンケートを実施

「西成のまちづくり100話」

不況・緊急アンケートを実施

 西成地区街づくり委員会は、1998年、「不況・緊急アンケート」を実施しました。この頃、数年来の不況の影響は顕著で、鶴見橋商店街の売上げは急降下し、失業の相談も増えたことから、この調査を実施することになりました。
 調査は、「生活者編」と「事業経営者編」の二通りで、前者は、地区居住の165人を対象に、後者は地区内の事業者93人(製造業43人、商店街44人)を対象に、いずれも98年6月に実施し、8月に報告書を作成しました。
 「事業経営者編」では、この一年間の経営状態について、「非常に苦しくなった」66.3%、「やや苦しくなった」27.5%、合わせると9割以上が苦しくなったと回答。対策としての「人件費の削減」は、商店街が40.9%、中小企業で83.3%にもなりました。この頃の鶴見橋商店街の空店舗率はまだ14.1%でしたが、それでも大阪市の7.1%の倍になっていました。また、行政に望むこととして、「金融面からの支援」が中小企業の77.6%を占め、「商店街の活性化支援」は63.6%になりました。この調査にご協力いただいた里中陽一さん(商店街コンサルタント、京都芸術短大講師)は次のようにコメントされました。「仕事柄、売上げが減ったと、あちこちで耳にするようになったが、この調査では、その様子が数値で確認された。それにしても、西成地区はひどい。中小企業の9割強が売上げ減少しているなんて以上な事態だ。売上げや注文減少、資金繰り難や競争激化が強まって、製品単価の低下やコストアップに拍車がかかり、経営がさらに悪化するという悪循環に陥っている。まさに『西成の危機』で、緊急の対策が必要だ」。
 「生活者編」では、大阪市内の完全失業率7.8%に対し、西成地区では17.6%にもなり、「解雇の不安」を抱える人は回答者の4人に1人にもなりました。また、不安定就労で働いている人が多く、資格58.2%、技術53.3%、知識44.8%を身に着けて、転職したいと希望している人が多いのも特徴でした。ここ一年間の生活実感では、「生活が苦しくなった」が70.9%にものぼり、全国一般世帯の43.7%を大きく上回りました。
 街づくり委員会では、この調査結果をもとに、(1)働く人のための相談体制の整備が必要、(2)現行制度を使いやすくしてもらう改革を提案していく、(3)街づくりの推進は、産業振興や雇用開発にもつながるので、住民と事業者、商店主が一体になった取り組みを進めることを確認しました。

資料:不況・緊急アンケートを実施

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第22話 鶴見橋商店街活性化構想

「西成のまちづくり100話」

鶴見橋商店街活性化構想

 鶴見橋商店街は、東西約2㎞の長さに8つの番街を有し、市内でも有数のにぎわいを誇っていましたが、消費志向や商業環境の変化により活力を失い、空き店舗が目立ちはじめました。このような事態に直面し、商店街連合の方々を中心に中小企業診断士等の専門家をまじえて鶴見橋商店街の活性化が構想されました。活性化の検討がスタートしたのは1995年で、当時すでに商店街の衰退化傾向は西成地域に限らず全国的な問題となっていました。
 鶴見橋商店街を構成する各店舗は間口が3~4mと狭く、しかも老朽化しており、その多くは通路にはみ出して陳列されています。そのため5.5mの通路幅が狭められ、さらに自転車利用者が多いことも相俟って、顧客が安心してゆっくりと買い物を楽しめるような魅力的な買い物空間となっていません。
 また、経営者の高齢化と後継者不足が深刻な問題となっていました。後継者がいないと店構えを残したまま廃業することになり空き店舗が残ります。
 鶴見橋商店街の空き店舗は番街によってばらつきはありますが、1996年時点では全334店舗中47店舗、14.1%で、当時の全国平均8.8%と比べると非常に速いスピードで空き店舗が発生しています。
 そこに、なにわ筋の拡幅によって商店街が東西に分断されるという問題が湧き上がり、商店街連合としては大変な危機意識を持ちました。
 このような状況で策定されたのが本活性化構想で、「基礎的環境整備」、「商業機能の強化と組織力の強化」、「新しい商空間の提案」の3つのテーマに分かれ、「基礎的環境整備」では、店舗や通路、施設等の空間的な整備方策が、「商業機能の強化と組織力の強化」では、当面取り組む短期プラン、3~5年後を目処に取り組む中期プラン、5年後には取り組む長期プランと時系列を明確にしたうえで空き店舗対策や組織力強化の方向付けが明示されています。そして「新しい商空間の提案」では、西成地区の新しい生活文化を創造していくための方策について、西成地区におけるまちづくりのコアと位置付けられた「なにわ筋結節点」を商業の視点から描いた将来イメージが示されています。
 「なにわ筋結節点」については別稿でも紹介しますが、鶴見橋商店街の分断ポイントとなる、なにわ筋と鶴見橋商店街の交差点のことで、ここには現在、この活性化構想で示された、鶴をモチーフにして5番街と6番街をリング状につなぐシンボリックな信号機が設置されています。これには、かつてこの地に鶴の飛来が見られたことから鶴見橋と呼ばれたという由来に、未来への発展の思いを込めた商店会の皆さんの熱い思いが込められています。

資料:鶴見橋商店街活性化構想

 

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第21話 津守西住宅から住宅福祉連絡員制度を創設

「西成のまちづくり100話」

津守西住宅から住宅福祉連絡員制度を創設

 1999年の頃、西成地区では、公営住宅などでの高齢者の孤独死や高齢者単独世帯での失火による死亡、自宅の風呂での障害者の溺死事故などが起こり、住民の不安が広がっていました。また、同和向け公営住宅及び改良住宅において、高齢者単独世帯、高齢者のみ世帯が急増しており、孤独や不安の声が多く寄せられていました。こうしたことから、西成ボランティアバンクによって食事サービス事業が始まり、高齢者や障害者の孤立解消への住民の関心が高まっていました。
 また、津守西住宅の住戸改善事業において、国のシルバーハウジング事業を誘致する運動が起こり、2002年から実現することも決まりました。大阪市でも、2000年度から5年間の同和対策事業における家賃制度や住宅管理人制度の改革検討も行われました。そこで、西成地区では、同和事業西成地区協議会や住宅入居者組合連合会、(社福)ヒューマンライツ福祉協会などの関係機関が「住宅福祉連絡員制度(仮称)」の検討を始め、大阪市と西成地区街づくり委員会は、「住宅福祉研究会」を設置、東京都のシルバーピア事業の調査など、広がりを持った研究を始めました。
 シルバーハウジング事業は、津守西住宅にライフサポート・アドバイザー(LSA)が配置されることになりますが、ここをコアに西成地区19住宅約1,600世帯全体に「連絡員」を配置する(住宅居住者の拠出と福祉法人などの自主事業で)というのが住宅福祉連絡員制度の構想で、将来は民間老朽賃貸住宅共同建替事業の適用住宅にも広げようというものでした。
 2001年2月から2002年3月まで、津守西住宅で「住宅福祉モデル事業」として実施しましたが、サービス内容は、①高齢者や障害者世帯の定期的な安否確認、(2)突然の病気や緊急時の通報並びに手配、(3)介護保険関連施設との連携、(4)親族へ日常生活をはじめ、病状など定期的(月1回)に近況報告、(4)利用者と連絡員で交換日記を実施し相談を補完する、(5)定期的なレクレーションなどでした。費用負担は、戸数×月300円を入居者組合が自治会費などから拠出し、駐車場還元金からも拠出しました。個人負担は、月額2,000円を基本料金にして、別途サービスに定める料金を徴収しました。住宅福祉連絡員は、月額100,000円を限度額とした非常勤職員としました。また、食事サービス事業を核にして、洗濯や買い物代行、共済制度など、住民協働による非営利の「くらしサポート事業」「一人暮らし高齢者支援事業」も構想していました。
 西成地区のまちづくり運動の象徴的な取り組みであった公営住宅での高齢者などの孤立防止の住民協働事業が大きく盛り上がった時でした。

資料:津守西住宅から住宅福祉連絡員制度を創設

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