第20話 ひとり親家庭を支援する「トライ!あんぐる」を結成 

「西成のまちづくり100話」

ひとり親家庭を支援する

「トライ!あんぐる」を結成

1998年11月12日、西成地区のひとり親家庭を中心にしたお母さんたちの就労と自立を促進し、子育てを支援するための地域の助け合い組織「トライ!あんぐる」(安田幸雄代表)が結成されました。この頃、西成地区では、母子家庭等ひとり親家庭が多く、まちづくりの話題が広がる中、そうしたお母さんたちの相談も多く寄せられるようになり、この組織の立ち上げにいたりました。
「トライ!あんぐる」は、(1)有償ボランティア方式による地域の協同子育て事業を実施しました。「急な残業で保育所に子どもを迎えに行けない」「夜勤の時に子どもを見てくれる人がいない」「子どもが熱っぽいが、仕事を休めない」・・・そんな時に、利用会員(子供を預かって欲しい人)、協力会員(子どもを預かってくれる人)を仲介するシステム(利用料1時間600円、協力会員には一定の報酬)でした
また、(2)子育て等のために外に働きに出るのが難しい人のために、自宅や地域の中でできる仕事を斡旋するシステム(テレワーカークラブ・クリック)も創り、「テレワーカー養成講座」等を開催しました。その他、(3)地域を基盤にしたフリーペーパー(無料の新聞)を発行し、子育てや就労支援の様々な情報を発信しました。
「トライ!あんぐる」の結成当時の会員は53人。子育てユーザー会員(利用会員)17人、子育てサポート会員(協力会員)20人、テレワーカー会員31人でした。1998年度は、社会福祉・医療事業団から、子育て支援基金4,750,000円の助成を受けました。また、1999年2月14日には、西成区の西天下茶屋商店街(中央通)内に、暮らしサポートプラザ「まざあ」を開設、そこに「トライ!あんぐる」の事務所も同居し、専従職員も置きました。
社会福祉法人ヒューマンライツ福祉協会では、ひとり親家庭等子育て支援ルーム「ステップ」事業を実施し、長橋老人憩いの家(当時は仮設だった)で、毎週火曜日と金曜日の夜、母等が夜間あるいは深夜勤務に従事している母子家庭等の児童で、1歳以上9歳未満の子どもたちの、食事提供や生活指導を行いました。「大阪市母子家庭等自立支援モデル事業」を活用した事業でした。保育スタッフ2名(看護師有資格者のアルバイト)が従事しました。

資料:ひとり親家庭を支援するトライ!あんぐるを結成

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第19話 西成高度情報化研究会

「西成のまちづくり100話」

西成高度情報化研究会

西成街づくり委員会は、1996年に高度情報化社会に対応する先駆的街づくりをめざす「西成デジタルタウン構想」を策定し、翌1997年4月には、地域情報化モデル事業を積極的に導入するために「西成高度情報化研究会」を設立、行政と協力して、住民が安心して使いやすい総合的な情報システムの実現をめざしました。
1998年8月通産省(当時)が公募した「情報化街づくり整備事業」に大阪市の要請を受けて応募、全国127件の中から、西成高度情報化研究会が提案した「地域型多用途ICカードの実証事業」が採択され、1999年4月に実証事業がスタートし、高齢者を中心に約4000枚のICカードが発行されました。
「1枚のICカードで買い物ができ、地域の医療や福祉サービスも受けられる」という構想で、不況に苦しむ商店街の活性化と高齢者が多い地域のニーズを組み合わせた全国初の情報化システムの試みで、「Jカード」と命名されました。当時、電子マネーの機能を持ったICカードは普及しておらず、京都や埼玉などでは商店街でのポイント制などの付加価値をつけていましたが、西成では、福祉サービスを付加価値にするという点で全国でも珍しい実験でした。鶴見橋商店街では、例えば、地域の医療機関や高齢者施設、障害者施設と連携し、地域住民の健康管理や介護サービスなどの予約などの情報を一元化するなどの構想も検討されました。利用者は、カードでこうした情報を入手できるほか、カルテや健康状態などの個人データを入力、急病で倒れた場合、提携した医療機関はカードだけで患者の情報を引き出せるようになる、高齢者の「お守り代わり」をめざしました。
最大の課題は、個人情報の保護で、商店街の電子商取引(EC)の管理と、個人の介護情報などを同時に処理できるセキュリティシステムの構築に取り組みました。基本のシステムは、考え方として(1)大阪市個人情報保護条例の理念を発展させる、(2)本人とカードの顔写真の照合で利用者を特定するシステム、(3)2枚のカードが残す利用履歴が目的外利用の抑止効果を高めるというもので、管理方法として、(1)地域情報化を推進する組織の構造と役割を明確にし、(2)地域情報システムを運営する地元組織を立ち上げ、(3)分散型の地域情報システム導入で構築・運用コストを軽減するというものでした。
Jカードは、西成のまちで話題となり、後に「くらしカード」に引き継がれて、地域情報化を進取した街づくりの事例となりました。

資料:西成高度情報化研究会

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第18話 病原性大腸菌Oー157対策本部を設置

「西成のまちづくり100話」

病原性大腸菌Oー157対策本部を設置

1996年5月28日、岡山県の学校給食での発生に端を発した病原性(腸管出血性)大腸菌、いわゆるО-157が全国で猛威をふるいました。7月13日には、堺市で学校給食から大量の集団感染が発生、3人の死亡者も出ました。厚生省(当時)が、疫学調査で原因食材としてカイワレ大根が疑われると発表して、大きな風評被害も引き起こしてしまいました。当時の菅直人厚生大臣が、風評解消のためカイワレ大根を食べるパフォーマンスが記憶に残りますが、日本列島が平静を取り戻すには相当の時間を費やしました。
「西成区で二名の患者発生」と新聞報道されたことで、西成でも、学校や保健所、区役所への区民の問い合わせが殺到、一種のパニック状態になりました。報道されることはありませんでしたが、「〇〇小学校の○○が感染した」「××も感染したらしい」等、まったくの憶測やデマ情報も飛び交い始め、地域では、重大な人権侵害が懸念された。
そこで、西成地区街づくり委員会と部落解放同盟西成支部は、西成地区内のすべての団体に呼びかけて「O-157対策本部」を結成しました。1996年7月25日のことで、素早い対応であった。「自分の命と健康は自分で守る」という広報活動を行い、病気に対する正しい知識と予防法を徹底するとともに、差別や排除を許さないという立場から、「もし感染しても、みんなで支えあい、安心して生活できる地域を作っていこう」と呼びかけました。また、大阪市に対して、全生徒・児童や全関係職員に対する検便の実施等を求めました。7月31日には、北津守小学校の説明会を対策本部で実施、会場の体育館が超満員となる参加者となり、住民の不安や関心の高さを示しました。対策本部は、地区内七保育所合同の説明会(8月1日)、長橋小学校(8月9日)、松之宮小学校(同9日)、鶴見橋中学校(同12日)、梅南中学校(同29日)と次々と説明会を開催しました。
そんな中、「感染者」と名指しされた子どもとご家族は、露骨な忌避、排除を体験し、対策本部に救いを求めてこられました。対策本部関係者も、実際の忌避の現場を現認しましたが、その異様な空気に驚かされました。対策本部は、ご本人の人権尊重を第一とし、厳格な情報管理に努めながら、住民啓発を行いましたので、偏見の流布は最小限で防止されました。
この頃、西成北西部のまちづくりは上昇気流に乗っており、住民の不安や偏見もありましたが、これを乗り越える参加意識がありましたし、日頃は口に出すことはありませんが、人権問題に敏感な部落解放運動があることを評価してくれる住民の反応が寄せられた事件でもありました。

資料:病原性大腸菌Oー157対策本部を設置

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